円分多項式の既約性

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多項式に関する補題

[補題] $f(X)\in\mathbb{Q}[X]$, $g(X)\in\mathbb{Z}[X]$ とし, ともにモニック (すなわち, 最高次係数が $1$) であるとする. このとき, $\mathbb{Q}[X]$ において $f(X)\mid g(X)$ ならば, $f(X)\in\mathbb{Z}[X]$ かつ $\mathbb{Z}[X]$ において $f(X)\mid g(X)$ である.

[証明] 関連記事を参照.

円分多項式の既約性

$i$ を虚数単位, $n>1$ を整数とし, $\zeta=e^{2\pi i/n}$ とおく. $\zeta$ は $1$ の原始 $n$ 乗根の一つである. 一般に, $1$ の原始 $n$ 乗根はすべて, $$ \zeta^{s},\quad 0<s<n,\quad \gcd(s, n)=1 $$ の形に表される. 特に, $1$ の原始 $n$ 乗根は全部で $\varphi(n)$ 個ある.

円分多項式 $\varPhi_{n}(X)$ を次のように定義する. $$ \varPhi_{n}(X)=\prod_{\eta}(X-\eta)\in\mathbb{C}[X]. $$ ただし, $\eta$ は $1$ の原始 $n$ 乗根の全体を動く.

[定理] $\varPhi_{n}(X)\in\mathbb{Z}[X]$.

[証明] 関連記事を参照.

[定理] 円分多項式 $\varPhi_{n}(X)$ は $\mathbb{Q}$ 上の既約多項式である.

[証明] 円分多項式 $\varPhi_{n}(X)$ は $\zeta$ を根にもつ. $p(X)\in\mathbb{Q}[X]$ を $\zeta$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式とすると, $\mathbb{Q}[X]$ において $p(X)\mid \varPhi_{n}(X)$ である. したがって, $p(X)$ の根はすべて $1$ の原始 $n$ 乗根である.

以下, すべての $1$ の原始 $n$ 乗根が $p(X)$ の根であることを証明する. そうすれば, $\varPhi_{n}(X)=p(X)$ がいえて, $\varPhi_{n}(X)$ の既約性が示される.

背理法により証明する. $1$ の原始 $n$ 乗根で $p(X)$ の根でないものが存在すると仮定し, $$ p(\zeta^{s})\neq 0,\quad 0<s<n,\quad \gcd(s, n)=1 $$ なる最小の $s$ をとる. $s>1$ であるから, $s$ は素因子 $p$ をもつ. $\gcd(s/p, n)=1$ かつ $s/p<s$ であるから, $p(\zeta^{s/p})=0$ となる.

$\zeta^{n}=1$ より, $\zeta$ は $X^{n}-1$ の根である. $p(X)$ は $\zeta$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式であり, 特にモニックだから, 補題より, $p(X)\in\mathbb{Z}[X]$ かつ $\mathbb{Z}[X]$ において $p(X)\mid X^{n}-1$ となる.

$(\zeta^{s})^{n}=(\zeta^{n})^{s}=1$ より, $\zeta^{s}$ も $X^{n}-1$ の根である. $q(X)$ を $\zeta^{s}$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式とすると, 補題より, $q(X)\in\mathbb{Z}[X]$ かつ $\mathbb{Z}[X]$ において $q(X)\mid X^{n}-1$ となる.

$p(X)$, $q(X)$ は $\mathbb{Q}[X]$ の相異なる既約多項式であり, 互いに定数倍ではない. 体上の多項式環においては, 既約多項式であることと既約元であることは同値であり, 同伴であることと定数倍 (ただし $0$ 倍は除く) であることは同値である. よって, $\mathbb{Q}[X]$ において $p(X)q(X)\mid X^{n}-1$ である. $p(X)q(X)$ はモニックだから, 補題より, $\mathbb{Z}[X]$ において $p(X)q(X)\mid X^{n}-1$ となる.

$\zeta^{s}$ は $p(X)$ と $q(X^{p})$ の共通根である. しかも, $p(X)$ は $\zeta^{s/p}$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式である. $p(X)$, $q(X^{p})$ はともにモニックだから, 補題より, $\mathbb{Z}[X]$ において $p(X)\mid q(X^{p})$ となる.

$\mathbb{F}_{p}=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ とおく. $\mathbb{F}_{p}$ は $p$ 個の元からなる有限体をなす. $a\in\mathbb{Z}$ に対し, $a$ を代表元とする $\mathop{\mathrm{mod}}p$ の剰余類を $\overline{a}$ とおく. また, $\displaystyle f(X) = \sum_{j}a_{j}X^{j}\in\mathbb{Z}[X]$ に対し, $\displaystyle \overline{f}(X) = \sum_{j}\overline{a_{j}}X^{j}\in\mathbb{F}_{p}[X]$ とおく. これにより, 環の全射準同型 $$ \pi: \mathbb{Z}[X]\longrightarrow\mathbb{F}_{p}[X],\quad f(X)\longmapsto\overline{f}(X) $$ が定まる. このとき, $\mathbb{F}_{p}[X]$ において $\overline{p}(X) \mid \overline{q}(X^{p})$ であることがいえる. 実際, $\mathbb{Z}[X]$ において $p(X) \mid q(X^{p})$ であるから, ある $u(X)\in\mathbb{Z}[X]$ が存在して, $q(X^{p}) = p(X)u(X)$. よって, \begin{align*} \overline{q}(X^{p}) &= \pi\bigl(q(X^{p})\bigr) = \pi\bigl(p(X)u(X)\bigr) \\ &= \pi\bigl(p(X)\bigr)\pi\bigl(u(X)\bigr) = \overline{p}(X)\overline{u}(X). \end{align*} 同様に, $\mathbb{F}_{p}[X]$ において $\overline{p}(X)\overline{q}(X) \mid X^{n}-\overline{1}$ であることもいえる.

$\mathbb{F}_{p}$ の任意の元 $\overline{a}$ に対して $\overline{a}^{p}=\overline{a}$ であることから, $$ q(X) = \sum_{j=0}^{t}b_{j}X^{j},\quad b_{j}\in\mathbb{Z} $$ とおくと, \begin{align*} \overline{q}(X^{p}) &= \sum_{j=0}^{t}\overline{b_{j}}(X^{p})^{j} = \sum_{j=0}^{t}\overline{b_{j}}^{p}(X^{j})^{p} \\ &= \sum_{j=0}^{t}(\overline{b_{j}}X^{j})^{p} = \left( \sum_{j=0}^{t}\overline{b_{j}}X^{j} \right)^{p} \\ &= \overline{q}(X)^{p}. \end{align*} ゆえに, $\mathbb{F}_{p}[X]$ において $\overline{p}(X)\mid \overline{q}(X)^{p}$ となる. $\overline{p}(X)$ は $\mathbb{F}_{p}[X]$ において既約とは限らない. そこで, $\overline{e}(X)$ を $\mathbb{F}_{p}[X]$ における $\overline{p}(X)$ の既約因子とする. $\overline{e}(X)\mid\overline{q}(X)^{p}$ であるが, $\overline{e}(X)$ は既約だから, $\overline{e}(X)\mid\overline{q}(X)$ となる. 結局, $\mathbb{F}_{p}[X]$ において, $$ \overline{e}(X)^{2}\mid \overline{p}(X)\overline{q}(X) \mid X^{n}-\overline{1}. $$ このことは, $X^{n}-\overline{1}$ が重根をもつことを意味する.

一方, $X^{n}-\overline{1}$ を形式的に微分すると, $\overline{n}X^{n-1}$. しかも, $$ \gcd(s, n)=1 \Longrightarrow \gcd(p, n)=1 \Longrightarrow \overline{n}\neq \overline{0} $$ であり, $\overline{n}X^{n-1}$ の根はすべて $\overline{0}$ である. したがって, $X^{n}-\overline{1}$ と $\overline{n}X^{n-1}$ との共通根は存在しない. すなわち, $X^{n}-\overline{1}$ は重根をもたない. これは矛盾である. (証明終)

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円分多項式は整数係数多項式である

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